投稿日: 2019/03/13

デポーズィト バガーリ

《僕が3.5軒茶屋を選んだ理由 『窓』編》

大学1年の秋学期に同級生が実家を離れ大学の近くで一人暮らしを始めた.部屋の広さは学生の一人暮らしにしてはゆったりしていたし,角部屋で二面から採光でき,さらに若者がついつい憧れてしまう「ロフト」まで付いていた.しかしこのアパート,オーナーが銭湯も経営していたからなのか,25年前でもどちらかと言えば珍しい風呂無し物件だった.
彼の選んだ部屋は風呂無しという点以外,間取りに関しては申し分ないのだが,銭湯に通う面倒臭さだとか,風呂に入る時間の制約だとか,そういうことを考えるとこのアパートじゃなくて,風呂が付いている他のアパートでもよかったんじゃないかと僕には思えた.

初めて友人宅を訪問した日に,僕は彼に「なぜこの部屋を選んだのか?」と訊ねてみた.
「窓からの眺めが気に入ったんだ」
18歳の青年がこんなキザな台詞を口にするのは小説の中だけだと思っていたけれど,僕の目の前の友人はなんの衒いもなくさらっと言ってのけた.それで僕は窓を開けて外を眺めてみたのだが,その景色は武蔵野によくある雑木林だった.

あれから時は流れて僕らも大人になり,紆余曲折(初志貫徹?)の末,僕はワインバー開業のために物件探しを始めました.そして2017年夏,三軒茶屋の空き物件に出会ったのですが,もともと希望していた1階路面ではなく,飲食店としては不利な2階であったり,築40年を超える建物の一室は,剥き出しのコンクリートがかなりくたびれているなど,ネガティヴな要素も目につきました.それでも通りに面して大きく広がった窓を見て,一瞬でワインバーのイメージが出来上がった.窓の外の景色は生活感溢れる商店街の一角ではあるものの,この窓の手前に大きな棚を造作してワイングラスを並べると,グラス越しの景色は日常を離れた優美なワインの世界としてお客様の心に映るんじゃないかなと思えたのです.

そしてその時,あの風呂無しアパートの窓から眺めた雑木林が,きっと彼の生活を豊かにする特別な景色だったんだろうな,と気づきました.
グラス越しに見える窓の外の世界が,あなたにはどんな景色に見えるのか,ぜひご自身の目で確かめてみてください.
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